②婚活は少子化と非婚化の最前線 -女性の選択、理論とその実際ー

婚活にまつわる研究・言説をクソ真面目に考察します。

2-2 男性の年収別既婚率と交際状況

男性の年収別既婚率と交際状況

 

 男性の所得と結婚・恋愛の関係について本格的に注目され始めたのは2008年頃からだと推定される。2008年に社会学者の山田昌弘氏が、白河桃子氏との共著で「『婚活』時代」を世に送り出した。もちろん、現在、広く用いられている「婚活」という言葉は、この「『婚活』時代」において初めて提示された。この本において、山田氏は、未婚化が進行している最大要因として男性の経済力低下を指摘した。同時期に、経済評論家の門倉貴史氏が、自著「セックス格差社会」において、同じく、男性の経済力と結婚・恋愛に強い関連性があることを論じている。そして、これ以降、非婚化・未婚化についての言説や研究は、男性の経済力に焦点化した論調が中心となる。

 実際に、男性の所得と結婚についてどのように論じられているのか。以下、その概要を確認しておきたい。

 

・2030歳代男性の所得階層別の既婚率

 

 男性が結婚できるかどうかは収入に比例する。この通説の基礎となった言説は、先述の書であるが、他にも、山田氏の著書「モテる構造」において、非婚化の原因が、同様に論じられている。ここでは「モテる構造」を通説の代表例として取り上げ、その非婚化論をレビューする。

 山田氏は、同書において下記に示した二つの図を提示し、男性の所得が恋愛・結婚に大きな影響を及ぼしていると論じている。図2-1は、2030歳代男性の年収別既婚率を示している。これによると、男性の既婚率は、20歳代、30歳代ともに、年収に比例して高くなっている。年収600万円以上の所得層にある男性の既婚率は、年収300万円以下のそれと比較して、実に34倍にものぼる。

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・30歳代男性の所得階層別の既婚・交際状況

 

  図2-2では、図2-1の所得層別既婚率の比較に加え、各所得者層における既婚率と恋人がいるかどうか等の細目の割合が示されている。図2-2は、対象を30歳代男性に絞っているが、ここでも、既婚者と恋人がいる、つまりパートナーを有する男性の割合が、収入に比例して高くなっている。さらに、図2-2からは、所得に応じた男性の女性との交際経験についても読み取ることができる。女性との交際経験については、収入に反比例して、所得者層が上がるほど、その割合が低下する。

 これらのデータは、男性はその所得によって恋愛も結婚もダイレクトに影響を受けることを示している。特に低所得者層にある男性は、結婚はおろか、過去から現在に至るまで恋愛や結婚のチャンスが少ないことがわかる。これらを根拠に、女性は、男性を恋愛や結婚の対象とするか否かにおいては所得を最重視しており、低所得者層にある男性は恋愛や結婚の機会が少なく、その結果、非婚化・未婚化が進行していると山田氏は主張する。そして、これが現在の非婚化・未婚化についての一般的な社会的見解となっている。

 ちなみに、これらのデータの出典は、2014年(平成26年)に内閣府経済財政諮問会議に設置された委員会によって提示された資料の一部である。また、同じデータは、厚生労働省の非正規・若者雇用対策についての資料としても用いられている。

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 著名な学者が政府統計を論拠に考察する非婚化現象論は、確かに、強い説得力がある。男性の恋愛・結婚は所得に強く影響されるという論考は、「婚活」という言葉の流行と同時に、非婚化現象の最大要因として認知されるようになった。これ以降、今日まで、社会現象として非婚化が論じられる場合、男性の経済力低下が主要因とされている。山田氏の研究以外を論拠とする場合も、統計年度や調査主体等が異なるだけで、内容は山田氏のそれと類似している。

 そして、ここ10年ほどの間、非婚化・未婚化についての言説や研究は、男性の経済力との関係を自明として発展的に論じられてきた。例えば、男女間の平均賃金の差と男性の既婚率(未婚率)との関係を都道府県別に比較した研究や、フランスと中国における男性の経済力と結婚・恋愛の関係を日本のそれと比較した言説等がある。