②婚活は少子化と非婚化の最前線 -女性の選択、理論とその実際ー

婚活にまつわる研究・言説をクソ真面目に考察します。

2-3 素朴な疑問点

2-3 素朴な疑問点

 

低所得者層の既婚男性は少数なのか

 

 非婚化・未婚化現象についての言説や研究は、大半が、男性の所得について指摘した内容か、もしくは、それを起点としている。この状況が自明となって久しいが、同時に、ひとつの疑問が生じる。それは、低所得者層に位置する既婚男性はどれくらいいるのかという疑問である。
 非婚化・晩婚化に限らず、何らかのテーマが論じられる際、その根拠として統計的なデータや資料が用いられる場合が多い。それらは概ね、割合(%)と数量(数値)の両面が提示され、そのどちらかに力点を置いた主張となるものが多々見受けられる。
 例えば、本論のテーマである非婚化・未婚化は、少子高齢化問題の一部である。社会的な視点から少子化の問題が焦点化される場合、少子化進行は、日本の人口全体に占める子どもの割合の低下と、そして、子どもの総数の減少が合せて論じられる。ここで具体例を挙げることはしないが、おおよそ、何らかの社会問題が正面から論じられる際、割合と数量の双方から言及される。
 しかしながら、非婚化・晩婚化に限っていうと、その言説や研究は、ほぼ全てが低所得者層に位置する男性の未婚率の高さに論点を採っている。そして、何故か、その論の対象となった男性の人数については言及がない。確かに、割合と総数のどちらに焦点を当てるのか、それは、論者それぞれの主張によって異なってくる。扱われるテーマや現象によって、それらがどちらか一方に偏ることもあるだろう。だが、非婚化・未婚化に関する研究や言説については、論拠や視点が偏っている。これは、あえて言えば、非婚化現象についての有識者の見解や姿勢に偏重があるということである。

 

②最下層を除くと既婚率・恋愛経験の差は小さい

 

 譲歩して、男性の所得と既婚率の関係についての通説が絶対的に正しいとしても、さらに、いくつかの疑問が残る。
 先に示した図2-1 、図2-2を見ると、確かに、男性の所得と既婚率は、年収層300万円未満と300万~400万円を比較すると、その割合は劇的に増加している。だが、年収300万~400万円の層とそれ以上の層を比較してみると、その増加率は緩やかである。図2-2で示されている交際経験の割合に至っては、所得階層による差が明確にあるとまでは言えないのではないか。図2-1の20代に限定すると、所得層の上昇と既婚率は、何故か反比例している。
 通説によって形成されたイメージは、男性の既婚率・交際経験率は所得の増加にしたがい増加するというものである。しかし、こうした現象は、年収の最下層と2番目に低い所得層の間に顕著であるのみである。それ以上の所得層を比較すると、男性の既婚率・交際経験率は、年収の増加に対して、その上昇率は、かなり緩やかである。
男性の収入と既婚率・既婚率の関係について、通説による社会的印象と通説の論拠とされるデータの概数をイメージ化したグラフが、図2-3である。このイメージ図からわかるように、実際のところ、通説や世間の印象ほど、男性の収入と既婚率・交際経験率は関連が強いとは言えないのではないか。

f:id:you-to168:20200724150246j:plain

 

③お金以外の要素への言及が少ない

 

 確かに、結婚とお金の関係は、極めて重要である。恋愛結婚が多数派を占める現在でも、この事実は変わらない。だが、その一方で、非婚化・未婚化進行の要因は、男性の所得以外にもあるだろう。それは、男性の「草食化」等々から社会制度的なものまで多岐に及ぶはずである。
 改めて図2-1、図2-2を見てほしい。これらによると、低所得者であっても既婚者・恋愛経験者が一定数おり、逆に、高所得者層の男性であっても、未婚または恋人に縁のない男性がいることがわかる。これは、収入以外にも、女性が男性を選ぶ、もしくは男性に女性から選ばれる要素が存在することを暗示している。もちろん、高所得者層にある男性は、自らの意志でパートナーを持たないという姿勢を採っている可能性もある。しかしながら、これだけ男女関係が自由化している現代社会において、未婚であることはともかく、高所得者層にあるはずの約40%の男性に恋人がいないというデータには違和感がある。やはり、お金以外の何らかの要素が非婚化・未婚化に強く繋がっていることが推定できる。
 だが、非婚化・晩婚化に関する言説や研究は、男性の収入に偏って論じており、他の要素・要因については補説程度にとどまっている。
こうした疑問は、つまり、通説は、矛盾点や検証不足である多くの問題を含有していることの裏返しである。こうした疑問を出発点に、以後の論を展開してゆきたい。