②婚活は少子化と非婚化の最前線 -女性の選択、理論とその実際ー

婚活にまつわる研究・言説をクソ真面目に考察します。

第2章 非婚化・未婚化要因についての通説

非婚化・未婚化要因についての通説

 

 この章では、有識者やメディアによって語られてきた非婚化・未婚化に関する言説や研究(以下通説とする)を具体的に概観する。端的に言うと、非婚化・未婚化の最大要因は、低所得者である男性が増加したことにあるとされる。この通説は、統計的な数字による裏付けもされており、一般的にも支持されている。

 非婚化・未婚化は男性の所得が低くなったため、という言説や研究を既にご存知の方は、前章同様、読み飛ばしていただいても差し支えはない。以下、具体的に通説の全容をまとめてみた。

  • 2-1 男性の経済力と結婚・恋愛との関係
  • 2-2 男性の年収別既婚率と交際状況
  • 2-3 素朴な疑問

2-1 男性の経済力と結婚・恋愛との関係

男性の経済力と結婚・恋愛との関係

 

 前章でも言及したように、非婚化・未婚化の社会的要因は、低所得者層にある男性の増加にあると指摘されている。男性は、高所得であるほど既婚率が高い傾向にある。それは、言い換えれば、低所得者層の男性が増加すれば、その分、未婚男性も増加し、結果として、社会的に未婚率が上昇するということである。これは、女性が男性を結婚相手として選択する場合に、男性の経済力を最重視するからだとされる。こうした言説や研究が広く唱えられ、通説として定着した。

 実際に、こうした現象を裏付けるデータも多数存在する。男性の経済力は結婚に直結しているという説明は、ある意味で真理・正論である。では、男性の所得と結婚や恋愛については、どのように関連しているのだろうか。

2-2 男性の年収別既婚率と交際状況

男性の年収別既婚率と交際状況

 

 男性の所得と結婚・恋愛の関係について本格的に注目され始めたのは2008年頃からだと推定される。2008年に社会学者の山田昌弘氏が、白河桃子氏との共著で「『婚活』時代」を世に送り出した。もちろん、現在、広く用いられている「婚活」という言葉は、この「『婚活』時代」において初めて提示された。この本において、山田氏は、未婚化が進行している最大要因として男性の経済力低下を指摘した。同時期に、経済評論家の門倉貴史氏が、自著「セックス格差社会」において、同じく、男性の経済力と結婚・恋愛に強い関連性があることを論じている。そして、これ以降、非婚化・未婚化についての言説や研究は、男性の経済力に焦点化した論調が中心となる。

 実際に、男性の所得と結婚についてどのように論じられているのか。以下、その概要を確認しておきたい。

 

・2030歳代男性の所得階層別の既婚率

 

 男性が結婚できるかどうかは収入に比例する。この通説の基礎となった言説は、先述の書であるが、他にも、山田氏の著書「モテる構造」において、非婚化の原因が、同様に論じられている。ここでは「モテる構造」を通説の代表例として取り上げ、その非婚化論をレビューする。

 山田氏は、同書において下記に示した二つの図を提示し、男性の所得が恋愛・結婚に大きな影響を及ぼしていると論じている。図2-1は、2030歳代男性の年収別既婚率を示している。これによると、男性の既婚率は、20歳代、30歳代ともに、年収に比例して高くなっている。年収600万円以上の所得層にある男性の既婚率は、年収300万円以下のそれと比較して、実に34倍にものぼる。

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・30歳代男性の所得階層別の既婚・交際状況

 

  図2-2では、図2-1の所得層別既婚率の比較に加え、各所得者層における既婚率と恋人がいるかどうか等の細目の割合が示されている。図2-2は、対象を30歳代男性に絞っているが、ここでも、既婚者と恋人がいる、つまりパートナーを有する男性の割合が、収入に比例して高くなっている。さらに、図2-2からは、所得に応じた男性の女性との交際経験についても読み取ることができる。女性との交際経験については、収入に反比例して、所得者層が上がるほど、その割合が低下する。

 これらのデータは、男性はその所得によって恋愛も結婚もダイレクトに影響を受けることを示している。特に低所得者層にある男性は、結婚はおろか、過去から現在に至るまで恋愛や結婚のチャンスが少ないことがわかる。これらを根拠に、女性は、男性を恋愛や結婚の対象とするか否かにおいては所得を最重視しており、低所得者層にある男性は恋愛や結婚の機会が少なく、その結果、非婚化・未婚化が進行していると山田氏は主張する。そして、これが現在の非婚化・未婚化についての一般的な社会的見解となっている。

 ちなみに、これらのデータの出典は、2014年(平成26年)に内閣府経済財政諮問会議に設置された委員会によって提示された資料の一部である。また、同じデータは、厚生労働省の非正規・若者雇用対策についての資料としても用いられている。

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 著名な学者が政府統計を論拠に考察する非婚化現象論は、確かに、強い説得力がある。男性の恋愛・結婚は所得に強く影響されるという論考は、「婚活」という言葉の流行と同時に、非婚化現象の最大要因として認知されるようになった。これ以降、今日まで、社会現象として非婚化が論じられる場合、男性の経済力低下が主要因とされている。山田氏の研究以外を論拠とする場合も、統計年度や調査主体等が異なるだけで、内容は山田氏のそれと類似している。

 そして、ここ10年ほどの間、非婚化・未婚化についての言説や研究は、男性の経済力との関係を自明として発展的に論じられてきた。例えば、男女間の平均賃金の差と男性の既婚率(未婚率)との関係を都道府県別に比較した研究や、フランスと中国における男性の経済力と結婚・恋愛の関係を日本のそれと比較した言説等がある。

2-3 素朴な疑問点

2-3 素朴な疑問点

 

低所得者層の既婚男性は少数なのか

 

 非婚化・未婚化現象についての言説や研究は、大半が、男性の所得について指摘した内容か、もしくは、それを起点としている。この状況が自明となって久しいが、同時に、ひとつの疑問が生じる。それは、低所得者層に位置する既婚男性はどれくらいいるのかという疑問である。
 非婚化・晩婚化に限らず、何らかのテーマが論じられる際、その根拠として統計的なデータや資料が用いられる場合が多い。それらは概ね、割合(%)と数量(数値)の両面が提示され、そのどちらかに力点を置いた主張となるものが多々見受けられる。
 例えば、本論のテーマである非婚化・未婚化は、少子高齢化問題の一部である。社会的な視点から少子化の問題が焦点化される場合、少子化進行は、日本の人口全体に占める子どもの割合の低下と、そして、子どもの総数の減少が合せて論じられる。ここで具体例を挙げることはしないが、おおよそ、何らかの社会問題が正面から論じられる際、割合と数量の双方から言及される。
 しかしながら、非婚化・晩婚化に限っていうと、その言説や研究は、ほぼ全てが低所得者層に位置する男性の未婚率の高さに論点を採っている。そして、何故か、その論の対象となった男性の人数については言及がない。確かに、割合と総数のどちらに焦点を当てるのか、それは、論者それぞれの主張によって異なってくる。扱われるテーマや現象によって、それらがどちらか一方に偏ることもあるだろう。だが、非婚化・未婚化に関する研究や言説については、論拠や視点が偏っている。これは、あえて言えば、非婚化現象についての有識者の見解や姿勢に偏重があるということである。

 

②最下層を除くと既婚率・恋愛経験の差は小さい

 

 譲歩して、男性の所得と既婚率の関係についての通説が絶対的に正しいとしても、さらに、いくつかの疑問が残る。
 先に示した図2-1 、図2-2を見ると、確かに、男性の所得と既婚率は、年収層300万円未満と300万~400万円を比較すると、その割合は劇的に増加している。だが、年収300万~400万円の層とそれ以上の層を比較してみると、その増加率は緩やかである。図2-2で示されている交際経験の割合に至っては、所得階層による差が明確にあるとまでは言えないのではないか。図2-1の20代に限定すると、所得層の上昇と既婚率は、何故か反比例している。
 通説によって形成されたイメージは、男性の既婚率・交際経験率は所得の増加にしたがい増加するというものである。しかし、こうした現象は、年収の最下層と2番目に低い所得層の間に顕著であるのみである。それ以上の所得層を比較すると、男性の既婚率・交際経験率は、年収の増加に対して、その上昇率は、かなり緩やかである。
男性の収入と既婚率・既婚率の関係について、通説による社会的印象と通説の論拠とされるデータの概数をイメージ化したグラフが、図2-3である。このイメージ図からわかるように、実際のところ、通説や世間の印象ほど、男性の収入と既婚率・交際経験率は関連が強いとは言えないのではないか。

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③お金以外の要素への言及が少ない

 

 確かに、結婚とお金の関係は、極めて重要である。恋愛結婚が多数派を占める現在でも、この事実は変わらない。だが、その一方で、非婚化・未婚化進行の要因は、男性の所得以外にもあるだろう。それは、男性の「草食化」等々から社会制度的なものまで多岐に及ぶはずである。
 改めて図2-1、図2-2を見てほしい。これらによると、低所得者であっても既婚者・恋愛経験者が一定数おり、逆に、高所得者層の男性であっても、未婚または恋人に縁のない男性がいることがわかる。これは、収入以外にも、女性が男性を選ぶ、もしくは男性に女性から選ばれる要素が存在することを暗示している。もちろん、高所得者層にある男性は、自らの意志でパートナーを持たないという姿勢を採っている可能性もある。しかしながら、これだけ男女関係が自由化している現代社会において、未婚であることはともかく、高所得者層にあるはずの約40%の男性に恋人がいないというデータには違和感がある。やはり、お金以外の何らかの要素が非婚化・未婚化に強く繋がっていることが推定できる。
 だが、非婚化・晩婚化に関する言説や研究は、男性の収入に偏って論じており、他の要素・要因については補説程度にとどまっている。
こうした疑問は、つまり、通説は、矛盾点や検証不足である多くの問題を含有していることの裏返しである。こうした疑問を出発点に、以後の論を展開してゆきたい。